「自ら学ぶ姿勢」を追求し、社会でリーダーシップを発揮する人材を育てる
深谷 和義 教授
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子ども発達
加藤 容子 教授
心理学科
社会が変化する中で、人の生き方や働き方も大きく変わりつつあります。産業・組織心理学を専門に、個人と組織の関係や労働場面における多様な人の働きやすさを追究する加藤先生に、学生との関わりや、変動する環境下で生きるために身に付けておきたい力について聞きました。
私の親世代は専業主婦の女性が多く、女性である自分はどのように自立して生きていけば良いのかと、中高生の頃から漠然とした不安を持っていました。一方で、“ひと”や“ことば”に関心を持ち、小説を読むことや人と話をすることを楽しむ日々を送っていました。そのようななかで臨床心理士という仕事を知り、親しみを感じる領域で専門職になれるかもと期待して心理学の学びを始めました。
心理学を学ぶうちに、臨床心理士としての仕事に加えて「研究という形で私たちを取りまく社会の課題になんとか取り組みたい」という気持ちが強くなり、大学院時代から現在まで手がけている「ワーク・ファミリー・コンフリクトへの対処」という研究テーマにたどり着きました。これは、心理的な側面からワーク・ライフ・バランスを実現しようとする研究です。このテーマを中心にしながら、女性としてのライフキャリアについて探究してきました。
20年余り研究を続けるなかで、女性を取りまく社会は変化していることを実感しています。働く女性が増え、共働き世帯が多数を占めるようになりました。しかし心理的な側面を見てみると、働く場では長時間労働の男性の働き方がスタンダードモデルになっており、家庭では女性が家事・育児・介護などのケア役割を主に担うという意識が根強いことが指摘されています。これらは私たち自身や社会に根深く存在する、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)によるものだと言えます。
このように表面的な平等と暗黙の格差が共存する社会の中で、働く人々のライフキャリアや心の健康の課題にどのようにアプローチできるのか、心理学の観点から探究しています。
授業の中でも、女性のキャリアについて問題を投げかけることがあります。すると学生からは「母親が家にいてくれたから、私も同じようになりたい」「母親が働いているから私もそれが当然と思っている」など、母親をモデルとする言葉を聞くことが多くあります。子どもとして親をモデルにするのは当然かもしれません。しかし社会は大きく変動しつつあるため、学生たちには「あなたはあなたの時代の生き方を考えていこうね」というメッセージを伝えています。この投げかけにハッとした学生が、改めて社会状況について学んだり、内省的に考える姿を見ると、とても頼もしく感じます。
その一方で「どう考えたら良いか分からない」と悩む学生の声もよく聞きますが、これも当然のことです。心理学では、青年期を“自分とは何者か”というアイデンティティの課題に直面する時期と捉えています。大人からの言葉に対して、疑いを持たず受け止めていた子ども時代から、それに疑問を感じて、模索し葛藤しながら自分自身の考えや感覚を持つようになり、やがて心理的に自立していきます。学生一人ひとりが“私らしさ”を形成するためにも、悩む自分もありのままに受け止めてほしいと願っています。
このような時期を女子大で過ごすことには、大きなメリットがあると思います。1つは安心できる環境のため、自分自身に向き合いやすいということ。もう1つは“女性の役割・男性の役割”というジェンダー・ステレオタイプから解放される環境の中で、それにとらわれない自分自身を発見しやすいということです。ジェンダー・バイアスが残る社会の中で、女性がアイデンティティを形成する大切な時期だからこそ、女子大が果たす役割は大きいと考えています。
私の専門である産業・組織心理学と社会とをつなげるとしたら「社会や組織は変化する」と言えるかもしれません。研究を始める前は「組織とは強くて変わらないもの」というイメージを持っていました。しかし組織で働く人たちと関わるうちに、組織は個人の集合体でありながら、単に個人を足し合わせたものではなく、集団としての独自の動きをする側面もあることを知りました。また、組織が個人に影響を及ぼすとともに、個人の働きが刺激やムーブメントとなり組織のシステムや風土を動かすこともあると実感しました。
つまり、組織も社会も決して一定ではなく変わり続けますし、個人が組織や社会を変えることもできるのです。そのためにも、いろいろな視点を持った個人が、適応的に役割を果たしながらも、より面白く、新しく、幸せになれるよう、主体的に社会側に提案していくことが重要ではないでしょうか。
本学の学生たちが社会の中でそのような一人として活躍できるよう、教員としての対応も意識しています。例えば、自分の意見や疑問、悩みを話してくれる学生に対してしっかりと向き合うこと。これは学生にとって、一生懸命伝えた意見に対して社会が反応してくれたという身近な例になり得ます。教員として、いつでも学生と対話できる存在でありたいですね。