産業・組織心理学の観点から考える、「変わる社会」と「変える個人」
加藤 容子 教授
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心理
深谷 和義 教授
子ども発達学科
教育現場におけるICTの活用が目まぐるしく進化するなか、教員にもICT活用スキルが求められています。教育工学や情報科教育を専門とし、高等学校や教育センター、教育委員会など学校現場で生徒と向き合ってきた経験を生かしながら、学生に教える深谷先生にお話を聞きました。
私は愛知県の高校の教員としてキャリアをスタートし、その後は愛知県総合教育センターや教育委員会で勤務していました。本学には、教育学部を開設する際にご縁があって入職し、2023年度で17年目を迎えます。大学の教員になるからには研究者としてもっと経験を積む必要があると考え、元々の専攻である情報工学の観点から教育の発展を考えた「教育工学」の分野を研究し、博士号を取りました。
その知見を生かし、現在は中学・高校数学の教員免許取得のためのコンピューター科目を主に担当しています。ICTが当たり前のように教育現場で用いられるようになった近年、これから教員を目指す学生たちはICT教育への対応が必須となるでしょう。工学的な視点では「新しい技術の開発」に重きが置かれますが、ICTを教育に導入するうえで最も重要なのは「それをどのように教育に生かすのか」。デバイスを使うのは目的ではなく、あくまでも手段であり、オンラインでありながらも教室で板書をしながら教室で授業をするのと同じ、もしくはそれ以上の成果が期待できる使い方を習得することが大切だと考えています。
私は常々「自分の周りにいるすべての人から学ぶことがある」と思っています。しかし大学で教員として働く立場や、「長」とつく職務に携わる機会のある立場上、特に自分と年齢の離れた若い人たちに対して、自分が「この意見が正しい」とはっきりと発言してしまうと、他者の良い意見を拾えなくなる恐れがあります。上司や先輩、同僚だけでなく学生や生徒から学ぶことも多く、たとえそれが自分とは異なる考え方であっても、まずはさまざまな意見を尊重することが大切だと考えます。
それこそが「人を大切にすること」であり、本学の教育理念である“人間になろう”に通じる部分でもあると思っているので、それを体現するためにもすべての人にとって意見が言いやすい環境づくりを心がけています。
また、学生たちに対しては「言葉を分かりやすく伝えることの大切さ」についてよく話します。教員を目指す学生は、就職後に特に保護者との対話のなかでこの力が重要になってきます。発言の意図が上手く伝わらないことで誤解を招いてしまう場合があるからです。日本語には、主語を省いたり、修飾語の順番を変えたりしてもおよそ意味が通じてしまうアバウトな部分があるため、書き手や伝え手は楽ですが、読み手や聞き手は受け取りに苦労する言語です。学生のうちから自分の意見や情報を正確に伝える力を養うために、ゼミでは論文の表現指導に力を入れ、発表の機会も多く設けています。
社会という切り口で教育を捉えると、やはり社会の変化に伴い教育も変わってきていると思います。集団が重視される時代から、個を大切にするという個別最適化の学びが主流となってきました。自分がやりたいことを伸ばして苦手をフォローしてくれるような仕組み自体は良いことなのですが、ややもするとお膳立てされた環境のなかで自主性が失われていく側面もあるかもしれません。
教育側からのサポートをただ待つのではなく、学ぶ過程で自分自身の得意不得意を把握しながら自分がやるべきこと、進む道を自分の意志で決定する。学生たちは常に受け身にならず自分から学ぶ姿勢を忘れないでほしいですね。教育学部の学生を見ていると、励まし合いながら仲間と共に目標に向かって努力することが上手だと感じます。そうした力を存分に生かし、同僚や職場の関係者と協働しながら、自分のアイデアや発想を遠慮なく伝え、社会においてリーダーシップを発揮する。その礎となる学力や意識を、本学で育んでいただきたいと思います。