日常生活に密接する建築・インテリア分野だからこそ叶う、自分の幸せと社会との接続の両立

阿部 順子 准教授

生活環境デザイン学科 

すべての人の日常にあり、あらゆる可能性がある建築・インテリア分野。人の生活と密接に関わるこの分野で、歴史意匠学、建築計画学を専門に授業を担当する阿部順子先生に、専門知識を学び、多くの経験を積むことの意味についてお話を聞きました。

建築の知見を社会に還元することで見えた、自身の幸せのかたち

建築学を専攻し、フランスの国立建築学校への留学を経て、フランスの近代建築の歴史に関する研究で博士号を取得しました。当時は「果たして自分の知識を世の中に役立てることができるのか」という葛藤もありましたが、最初の就職先でフランスの古い団地の活用についての研究を任されたとき、自分の専門が社会とつながった感触を持てたことを覚えています。
 
同じ分野を研究をされていた先輩の後任として、2006年に本学に入職しました。以来、西洋建築史・インテリア史・グラフィックデザイン演習などの授業を担当しています。着任5年目に先天性心疾患を持った第2子の誕生をきっかけに、病院に付き添う家族のための空間に問題があることに気付き、その分野の研究を始めました。現在はアートによる環境改善を目指す「ヘルスケアアート」プロジェクトの学外メンバーとして活動を続けています。
 
また、県内で最も高齢化率が高い地域のひとつである愛知県北設楽郡東栄町のまちおこしにも参加しています。観光や商品開発から、廃校木造校舎の活用にも携わっていますが、今後はさらに住民の方々に参加してもらえるよう活動していきたいですね。実は、東栄町の古民家を購入・耐震改修し、休日はDIYリノベーションして遊んでいます。
 
このようにプライベート、趣味、仕事が渾然一体となり、私は本学に来てから自分自身を幸せにすることが上手になったように思います。今も日々幸せに対して貪欲になっていますし、それができるのは、やはり周りの人や環境のおかげですね。

知識を得て多角的な視点を養うことは、幸せの土台づくり

いつも忙しくしているせいか、学生たちから「うちのお母さんはつまらなさそうなのに、先生はなんでいつも楽しそうなんですか?」と聞かれたことがあります。最初にその質問をされたとき、年を重ねるとつまらなくなるという学生たちの考えに衝撃を受けました。私は積み重ねてきたことが段々と結実したからこそ、昔より今の方がずっと楽しいし幸せなんです。

幸せのかたちは人それぞれですが「幸せは夢を達成したときに得られるもの」だと私は考えています。やはり自分で何かことを起こすとき、専門知識や経験なくしてはより大きな満足感は得られないと思います。私は学生たちに幸せになってほしいと願っているので、知識を身に付けることで景色の見え方が変わる体験を通して、この4年間で学びの土台を作る手助けをしたいですね。

また、社会に出てからは心を折られるような経験をするかもしれません。そのときに強く生きていくためには、幸せの種、つまり成功体験から得た自信が必要です。それを少しでも多く学生の間に身に付けてもらうのも、私の役割だと思っています。

自由であるためには、社会とのつながりが不可欠

私は工学部建築学科という女性がマイノリティな環境で過ごすなか、反骨精神で乗り切ってきた場面が多くありました。けれど私のやり方がベストだったのかどうかは分かりませんし、教え子にも「根性で乗り切ってね」とはとても言えません。居場所や環境は、ライフステージや自分の考えや好みに応じて変わるものなので、柔軟に、たくましく自分が楽しいと思えるところを見つけてほしいです。

一方で、仕事を通して社会とのつながりを持ち続けることは大切だと思います。誰かに経済的に依存すると自由な決断ができなくなりますし、一度断絶してしまうと目まぐるしく変動する社会に順応することが難しくなるのではないでしょうか。だからこそ、どんなに薄くてもいいし、どんな手段でも良いから、社会との接続だけは切らないで、と学生に伝えています。

私が教えている建築やインテリアはすべての人の日常にあり、仕事としてもありとあらゆる可能性がある分野です。例えば銀行に就職した卒業生は、図面を読み取る力を住宅ローン審査に役立てていたり、ちょっと想像がつかない分野に行ったときほど強みになるものなんです。専門を学んでひとつものさしを作ったら、どの社会でも居場所が見つけやすくなる。そのものさしを使えば無限に横展開ができて、社会とも多様なつながりができるので、思う存分自分の興味関心を追求してもらいたいです。

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