さまざまな「声」を読み解き、現在の「なぜ」を考える

堀 江里香 講師

英語英米学科

同じ歴史的な出来事でも、誰の立場から語るかによって、その意味や評価は大きく変わります。アメリカを中心とした日系人の歴史を研究する堀先生に、多様な声を読み解く研究や、現代社会の「なぜ」を考える学びについて聞きました。

異なる立場から見えてくるもの

私の専門分野は、アメリカを中心とした日系人の近現代史と、歴史的な出来事がどのように記憶され、語り継がれてきたのかをめぐる研究です。国家や社会の中で見えにくくされてきた人々の「声」に耳を傾け、史料の掘り起こしや現地調査、関係者へのインタビューを重ねながら、さまざまな立場から出来事を読み解くことを大切にしています。

大学院留学時から長年にわたり調査してきたのが、1889年にハワイ王国(現在のアメリカ・ハワイ州)で起きた「後藤濶リンチ事件」です。明治時代に契約労働者としてハワイに渡った後藤濶は、劣悪な労働環境に異議を唱えた末、リンチによって28歳で命を落としました。

後藤が日本人労働者たちの待遇改善を求めていた当時、その行動は、欧米出身のサトウキビ・プランテーション経営者だけでなく、外交上の摩擦を避けようとするハワイの日本総領事館からも問題視されていました。事件は長く沈黙と忘却の中に置かれましたが、1960年代以降、後藤を英雄として再評価する動きが進み、死後1世紀を経てハワイに記念碑が建立されました。こうした評価の変化は、歴史をいつ、誰が、どのような立場から語るかによって、人物や出来事の意味が変わることを示しています。

また、第二次世界大戦中、アメリカ本土やハワイ、さらにはペルーなどの南米諸国から、日系人としての出自や日本とのつながりを背景に「危険な敵性外国人」とみなされた人々とその家族が、アメリカ・テキサス州の抑留所へ移送・収容された歴史と、その記憶・継承についても研究しています。

現在の「なぜ」を、歴史から考える

私が研究や授業で扱うのは、過去の出来事だけではありません。アメリカ本土やハワイを中心に、移民、人種、ジェンダー、戦争、人権など、現代社会にあるさまざまな「なぜ」を、歴史的背景を踏まえ、多角的な視点から考えることを大切にしています。

こうした問題は、ある日突然生まれたものではありません。その歴史的背景を知ることは、現在の社会をより深く理解し、これからのあり方を考えることにつながります。アメリカでの大学・大学院留学や客員研究員時代には、人種構成や社会的背景の異なる複数の州で生活しました。さまざまなルーツを持つ人々と出会い、交流を重ねた経験が、現在の研究と教育の基盤になっています。

学びを社会とつなぐ実践として、本学の学生が、シンガポール経営大学で日本語を学ぶ学生の会話パートナーとなり、毎週オンラインで交流する「社会関与プロジェクト」も行っています。回を重ねるなかで、本学の学生たちは、異なる文化的背景を持つ相手と積極的に対話し、互いの文化への理解を少しずつ深めていきます。その姿をとても頼もしく感じています。

自分の未来を、自分で選ぶ

世界各地で紛争や分断が続く今だからこそ、「もし自分がその立場に置かれたら」と想像し、当事者の声に耳を傾けることが重要だと考えています。同じ出来事であっても、立場によって見え方は異なります。また、国家や社会によって、出来事の捉え方や、何を「正しい」とするかは異なり、そのずれが対立や分断につながることもあります。

AIをはじめとする科学技術がどれほど進歩しても、異なる立場や文化的背景に目を向け、対話を通して他者への理解を深め、自分自身で考え、判断することの大切さは変わりません。歴史は、単なる「過ぎ去った過去」ではなく、私たちが現在の社会を考え、未来を選び取るための手がかりになるものです。
私自身、それぞれのライフステージにおける女性の「現在地」を実感してきました。だからこそ学生たちには、社会の仕組みや課題について学ぶとともに、大学でさまざまなことに挑戦し、多くの人と出会い、多様な考え方に触れてほしいと思っています。そのなかで、自分が何を大切にし、どのような人生を歩みたいのかを考えてほしいのです。
椙山女学園大学のタグライン「私を選ぶのは、わたし。」にあるように、周囲から求められる役割にとらわれすぎることなく、一人ひとりが自分らしい道を選び取れるよう、私自身もその歩みに寄り添いながら、共に学び続けていきたいと考えています。

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