現代社会学科:人々の暮らしから考える社会格差と海洋環境問題 —フィリピン・セブでの研修とフィールド調査—

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リゾートだけでは語れない、セブの人々の暮らしと社会の姿とは?
現代社会学科の学生が現地を歩き、人々と交流しながら、社会格差と海洋環境問題のつながりを学び、セブという地域社会を多面的に捉えました。
現代社会学科の小林かおり准教授のゼミ生が8月5日(木)から8日(土)にかけて、フィリピン・セブで海外研修・フィールド調査を実施しました。昨年度に続く今回の研修では、現地の人々との交流やインタビューに加え、海洋プラスチックごみに関する調査をさらに充実させ、地域社会の多様な姿に触れました。
 
今回のテーマは、「人々の暮らし」から社会格差と海洋環境問題のつながりを考えることです。
 
美しい海とリゾート地として、多くの観光客を惹きつけるセブ。その一方で、急速な都市化のなかで、貧困、生活環境、各地に点在する廃棄物集積所、海洋プラスチックごみなど、さまざまな課題も抱えています。今回の研修では、観光地だけを訪れていては見えてこない地域を実際に歩き、そこに暮らす人々の声に耳を傾けながら、フィールドワークに取り組みました。海洋環境問題を海洋だけの問題として捉えるのではなく、「人々の暮らし」から見える現実を出発点に、その背景にある「社会構造」に目を向けながら、社会格差と海洋環境問題のつながりを考える4日間となりました。

事前準備、そして現地を見る前に「問い」を持つ

8月5日、セブに到着した学生たちは、渡航前の事前学習を振り返りながら「事前ノート」を記入しました。現地で目にするものを、単なる「驚き」や「印象」で終わらせないために、自分はフィリピン社会について何を知っているのか、何を知りたいのか、どのような視点で社会を見るのかを整理し、それぞれの「問い」を持ってフィールド調査に臨みました。

暮らしの現場を歩く

6日は、セブ市内の市場や街並みを巡ることから始まりました。地元の人々が日常的に利用する市場を歩き、現地の食文化にも触れながら、人々の暮らしを身近に感じました。
その後は、市場周辺で物売りなどをしながら生活する子どもたちとの交流とインタビューを行いました。子どもたちと直接言葉を交わし、日頃身を寄せている場所を訪ね、どのような環境のなかで暮らしているのかを知ることで、統計データや教室での学習だけでは見えてこない、一人ひとりの日常に触れました。
 
  • 現地の大学生にバディとして研修に参加してもらうことで、本学学生が安心してコミュニケーションを図りながら、現地への理解を深められる環境を整えています。初対面とは思えないほどすぐに打ち解け、移動中の専用車内でも笑顔と会話が絶えませんでした。

  • ストリートで働く子どもたちとの交流では、直接言葉を交わしながら、その生活や日常についてインタビューを行いました。

さらに、複数のスラム地区(インフォーマルな居住地域)を訪問しました。
 
最初に訪れたのは、河口付近に大量のプラスチックごみが堆積し、その周辺で少数民族の人々が暮らす地域です。なぜプラスチックごみが河口近くのコミュニティに堆積し、その一部が海へ流出するのか。その背景には、生活環境、ごみの収集・処理のしくみ、都市インフラ、そして社会経済的な状況があります。学生たちは現場を歩きながら、目の前にある「ごみ」だけでなく、その背後にある社会のしくみにも目を向けました。

続いて訪れた海上のスラム地区では、海と極めて近い場所で営まれる人々の暮らしを調査しました。コミュニティ内を移動する際には、廃材の板などを組み合わせてつくられた足場を慎重に渡る場面もあり、日本とは大きく異なる生活環境を文字どおり自分たちの足で体感しました。
  • 少数民族の人々が暮らす地域を訪れ、子どもたちから笑顔の歓迎を受けました。

  • 海上に広がるスラム地区では、複雑に入り組んだ集落の中を、足元に注意を払いながら慎重に進む学生たち。実際に地域を歩くことで、そこで暮らす人々の生活環境を肌で感じる貴重な機会となりました。

別のスラム地区へ移動した後には、その地域で受け継がれてきた伝統的なお祭りにも参加しました。豚の脳を使った料理を紹介していただくなど、日本ではなかなか触れることのない食文化にも出会いました。厳しい生活環境だけではなく、祭りという特別な時間を楽しむ人々の笑顔や、地域で受け継がれる文化にも触れることができました。また、地区間の移動には馬車やトライシクルなど、現地ならではの交通手段も利用しました。学生たちは地域の暮らしを肌で感じながら、セブの日常に入り込むようなフィールド調査を行いました。

社会課題だけを見るのではなく、文化、人々のつながり、日々の営みにも目を向ける。地域の人々と同じ場所で時間を過ごすことで、「課題を抱える地域」という一面的な見方だけでは捉えきれない、地域社会の多様な姿に触れました。
  • 地域の伝統的なお祭りが開催される中、にぎわう通りを歩く学生たち。

  • この日は、トゥスロブワと呼ばれる豚の脳みそを使った伝統料理や、ココナツの葉に包んで蒸したおにぎりが地域のあちこちで、無料で振る舞われる特別な日でした。

  • 地域間の移動に馬車を利用したり(左)、トライシクルに乗車したり(右)するなど、学生たちは現地ならではの移動手段を実際に利用し、人々の暮らしに触れました。

「ごみ」の先にいる人々を見る

7日は、廃棄物集積場を訪問しました。ここでは、ごみの状況を観察するだけでなく、ごみと関わりながら生計を立てる人々へのインタビューも行いました。私たちが「廃棄物」や「海洋ごみ問題」と呼ぶものが、そこでは誰かの仕事や収入、そして日々の生活そのものと結びついています。実際にその現場を見て、当事者から直接話を聞いたことで、学生たちがそれまで抱いていた「ごみ」や「環境問題」に対する見方は大きく揺さぶられました。

その後、別のスラム地区へ移動し、コミュニティの人々にハヤシライスを振る舞いました。学生が日本から持参した品々を、じゃんけんやゲームを通じて地域の人々に届ける交流も行い、学生からは「こんなに喜んでもらえるのであれば、もっと持参すればよかった」という声も聞かれました。

同じ場所で時間を過ごし、食事を囲み、言葉を交わす。そこでは、「調査する側」と「調査される側」という関係だけには収まらない、人と人との交流が生まれました。
  • この日の炊き出しはハヤシライス。日本から持参したルーと現地で調達した野菜などを使い、学生たちが地域の広場で一から調理し、子どもたちをはじめとするコミュニティの人々に振る舞いました。

  • 日本からドネーションとして持参した物資は、じゃんけんやゲームを取り入れながら、楽しみつつ公平に行き渡るよう工夫して届けました。

  • 活動の合間には、人懐こい地域の子どもたちが自然と学生たちの周りに集まり、笑顔あふれる交流のひとときとなりました。

  • 活動の振り返りとディスカッションを終え、いよいよ現地大学生をはじめとするバディとのお別れの時。ともに活動し、語り合う中で、短い期間ながらも学生たちの距離はぐっと縮まりました。別れ際には、名残を惜しみながらハグを交わしたり(左)、固く握手をしたりする姿も(右)。研修を通して生まれたつながりが感じられる、心温まるひとときとなりました。

リゾートだけでも、貧困だけでもない「場」

最終日の8日は、「事後ノート」を記入し、研修全体を振り返りました。事前ノートと比較しながら、現地での経験を通して、セブやフィリピンに対する自分自身の見方がどのように変化したのかを学生同士で確認し合いました。

その後、希望者はセブの観光に関する見学とインタビューも実施しました。「観光」を研修に組み込んだのは、セブを貧困や環境問題だけから捉えないためです。華やかなリゾートも、スラム地区も、海も、廃棄物集積場も、地域文化も、そこに暮らす人々の日常も、すべてが同じセブという地域を形づくっています。そのどれか一つだけを見るのではなく、異なる側面を行き来しながら地域を見ることで、一面的なイメージを越えて、セブという地域社会を多面的に捉えることを目指しました。
 

さまざまな社会課題を抱える一方で、経済発展を象徴する大型ショッピングモール(1枚目)、おしゃれなカフェ(2枚目)、美しいビーチリゾート(3枚目)など、多彩な表情をもつセブ。社会課題の現場だけでなく、発展を続ける街の姿にも触れ、実際に「見て、関わる」ことで、経済発展がもたらす光と影を具体的に知り、その背景やつながりについて「考える」きっかけとなりました。

「知っている」から、「見て、関わり、考える」へ

今回の4日間の研修では、海洋プラスチックごみの調査、地域住民や子どもたちとの交流、インタビュー調査、廃棄物集積場の訪問、炊き出し、家庭訪問、文化体験、観光調査など、多様な活動を行いました。教室で「知る」だけではなく、現場を歩き、人々と出会い、話を聞き、自分の目で確かめる。そうすることで、それまで見えていなかった疑問が生まれ、「もっと知りたい」という新たな問いへとつながっていきます。
 
参加した学生の声からも、教室で「知る」ことから、現場で「見て、関わり、考える」ことへと学びが深まった様子が伝わってきます。

参加した学生の声

蟹江李華さん
「授業でスラム街ができた経緯や背景を学びましたが、知識として『知っている』ことと『実際に見る』ことは全く違うと実感しました。現地で人々の暮らしに触れたことで、授業だけでは得られない多くの気づきがありました。この研修を通して、自分がこれから学びたいことや、子どもたちのためにできることが明確になりました。」

竹内璃未さん
「実際に現地に行ったことで、これまで感じたことのない衝撃を受けました。貧困地域が各地に分散している現状や、そこで暮らす多くの子どもたちの姿を目にして、今の自分にできること・もっと力になれることを現実的に考えていきたいなと思いました。もし、もう一度行ける機会があったら、できるだけ多くの支援物資を自分の手で届けたいなと思いました。」

寺西由璃愛さん
「今回のセブ研修では、海上スラムやごみが多く残る地域を訪れたり、スラムでの炊き出しや家庭訪問を行ったりと、普段できない貴重な経験をしました。実際に現地を訪れ、そこで暮らす人々の様子を見たり、直接関わったりすることで、より深く学ぶことができました。また、日本で当たり前だと思っていた生活について改めて考え、貧困や環境問題をより身近な問題として捉えるきっかけにもなりました。」

セブで生まれた「問い」を、次の学びへ

今回の研修で得たものは、セブに対する「一つの答え」ではありません。環境問題を、その背景にある人々の暮らしや社会構造まで掘り下げて考えること。遠い国の出来事としてではなく、自分自身の生活やこれからの学びともつながる問題として捉えること。そして、現地で見たものをそのまま「答え」にするのではなく、「なぜだろう」「もっと知りたい」という新たな問いへと変えていくこと。セブで「見て、関わり、考える」中から生まれたそれぞれの「問い」を、学生たちはこれからの学びへとつなげていきます。

現代社会学科では、教室で得た知識を実社会と結びつけ、国内外のフィールドで人々と出会い、自ら問いを立てながら、複雑な社会課題を多面的に捉え、考える学びを大切にしています。

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