栃窪ゼミ×名古屋市役所市長室広報課
地域と連携し、映像を通して社会にメッセージを発信する

情報社会学部 現代社会学科(旧:文化情報学部 メディア情報学科)

椙山女学園大学では、各学部・学科の知識や研究成果を広く社会に還元し、新たな価値創造に貢献することを目的に、社会連携を積極的に推進しています。
栃窪ゼミは、「映像で社会情報を伝えることで、社会は大きく変わる」という思いのもと、15年以上にわたって地域と連携しながら映像メディアでの発信に取り組んできました。2024年度の実践プロジェクトの1つとして、名古屋市広報課と連携して進めている「なごや堀川クルーズ」の広報映像の制作現場を取材し、栃窪先生とゼミ生、名古屋市広報課の職員の方にお話を伺いました。

記事に登場する人(※取材時:2024年9月)

情報社会学部 現代社会学科(旧:文化情報学部 メディア情報学科) 栃窪優二 教授

小嶋莉世さん(メディア情報学科 3年生)

窪田くららさん(メディア情報学科 4年生)

名古屋市役所市長室広報課 杉本咲 様

学生の成長にも社会貢献にもつながる実践プロジェクト

— 栃窪ゼミのテーマや活動内容について教えてください。

栃窪 私の研究テーマは映像ジャーナリズム論です。ゼミでは社会情報を映像メディアで発信する活動をしています。これまでゼミ生と一緒に、名古屋市や東山動植物園と連携して地域の魅力を発信するプロジェクトや、東日本大震災(宮城県石巻市)の映像記録プロジェクトなどに取り組んできました。

— 小嶋さんと窪田さんは、どんなところに魅力を感じて栃窪ゼミを選びましたか?

小嶋 私は小さい頃からカメラを触るのが好きで、カメラマンの仕事にずっと憧れていました。大学では映像制作に取り組めるゼミに入り、カメラで撮影してみたいと思って栃窪ゼミを選択しました。
 
 
窪田 私はテレビが好きで、将来はテレビ関係の仕事に就きたいと思ってメディア情報学科(現:現代社会学科)を選びました。入学前、栃窪ゼミが制作した東日本大震災の映像などを観て、私も栃窪先生のもとで映像制作をしてみたいと思いました。

— ゼミではどんなプロジェクトに取り組んでいますか?

小嶋 私は今、名古屋市との連携プロジェクトで「なごや堀川クルーズ」を紹介する広報映像を制作しています。私はディレクター兼カメラマンとして関わり、自分のやりたかったことに思う存分チャレンジできています。
 
 
窪田 私は3年生のときに、名古屋市広報課と連携し、2026年に名古屋で開催されるアジアパラ競技大会に向けて、障害者スポーツを紹介する映像を制作しました。このプロジェクトではディレクターを担当し、今年の「なごや堀川クルーズ」のプロジェクトにはエキストラとして参加しています。栃窪ゼミは、制作のノウハウが身に付くのはもちろん、自分で考えて主体的に動けるのが魅力だと感じています。

— 地域連携による実践プロジェクトは、どういった経緯でスタートしたのでしょうか。

栃窪 私は2007年に本学に着任し、この大学で質の高い実践的なメディア教育や、PBL(課題解決型学習)を行いたいと考えて、東山動植物園や名古屋市科学館、名古屋港水族館といった地域の施設との連携を始めました。こういった実践プロジェクトを通じて、学生たちに映像制作の知識や技術だけでなく、判断力や表現力、コミュニケーション力を養ってほしいと考えています。

— 名古屋市との連携はどのようにして始まったのですか?

栃窪 名古屋市広報課に私から提案して、2015年にプロジェクトがスタートしました。それ以来、毎年テーマを決めて映像を制作しています。大学と外部とのコラボレーションは、双方にメリットがないと成り立ちません。先方に満足していただける映像を制作できているからこそ、10年にわたってプロジェクトが続いているのではないかと思います。

— 実践プロジェクトに取り組む上で、どんなことを大切にされていますか?

栃窪 学生が実践を通じてさまざまな力を養うことと、もう一つは、大学として社会に貢献することです。映像で社会情報を発信すると、社会は大きく変わります。私たちが制作している映像は、市の公式動画サイトやYouTubeで公開され、大勢の人の目にふれるものです。だからこそ、「社会をより良い方向に持っていこう」という制作者の思いが大切だと考えています。

現場を経験してこそ実感できる、大変さとやりがい

— 現在進めている名古屋市とのプロジェクトの制作プロセスについて教えてください。

小嶋 まず初めに、市の担当者の方たちと打合せして、クルーズの内容や周辺エリアの魅力をヒアリングしました。その後、6月にロケハンを行い、台本を作成。市の方たちとやり取りして調整した上で、9月に本番の撮影を行いました。ディレクターは私と同級生の2名で担当していますが、撮影当日は3~4年生のゼミ生全員にスタッフや出演者として協力してもらい、総勢20人ほどで臨みました。これから編集作業に入って、3ヵ月ほどで完成予定です。

— 実際にプロジェクトに携わってみていかがですか?

小嶋 撮影の際は、リポーターがどのあたりで話し始めると景色と音声がぴったり合うのか、橋の下をくぐる際はリポーターの顔に影がかかってしまうのでタイミングをどのように調整するのかなど、現場に出て初めて気づく難しさがたくさんありました。私はディレクターとカメラマンを兼任しているので、現場で画を見て確認しながら「きれいに撮れたな」と思える瞬間は、やはり楽しいしやりがいがありますね。 

— 窪田さんは、映像制作を通じてどんなところにやりがいを感じましたか?

窪田 他のゼミ生が担当するプロジェクトで、カメラマン、音声、MC、エキストラなどの役割を経験してから、自分がメインとなるプロジェクトではディレクターを担当したので、いろいろな立場の人たちの苦労を理解できたのが良かったなと思います。周りに配慮しながらチームをまとめていくのは大変ですが、やりがいも大きかったです。

— できあがった映像への反応はいかがでしたか?

窪田 新聞などのメディアで取り上げてもらえたのはうれしかったですね。完成した制作物からさらに輪が広がっていくのを実感して、地域の取り組みに自分たちも少しは貢献できたかなと思いました。
 
 
栃窪 窪田さんが昨年制作した車いすテニスの映像は、今年は英語版も制作し、名古屋市広報課の方にも喜んでいただきました。他にも、長年続いている東山動植物園とのプロジェクトは、全国の動物園関係者にも観てもらっていると聞いています。市民への教育普及だけでなく専門家にもメッセージを与えられるような作品だと評価していただけたのはとてもうれしいです。

— 名古屋市役所では、プロジェクトの成果をどのようにとらえていますか?

杉本 行政の映像制作では、行政として伝えたい情報を盛り込みすぎてしまうことがありますが、学生さんに関わっていただくことにより、映像を観る側の視点と若い感性が活かされた映像を制作できるため、大変ありがたいです。名古屋市の他部署とも映像制作での連携が広がっていることは、この広報映像制作が高く評価されている証だと思います。

— 椙山生に対しては、どんな印象をお持ちですか?

杉本 椙山女学園大学の学生さんは、前向きに自ら考え、行動することができる方が多いと感じます。例えば、レポーターの方がセリフを読む際に、「これはどのような意味ですか?」「これはこのように読んだほうが良いですか?」と積極的に質問してくださって、セリフをきちんと自分の中に落とし込み、自分の言葉にしようとされていた姿が印象的でした。

実践的な学びが、将来の夢に直結する

— ゼミでの経験は、就職活動にもつながっていますか?

窪田 実践プロジェクトでは目上の方々と打合せをする機会が多かったので、そのときに学んだコミュニケーションの取り方は就活でも役立ちました。東京のCM制作会社にインターンに行ったときには、他大学の学生にゼミ活動について話すと、「地域を巻き込んで制作しているなんてすごいね」と驚かれたので、私は栃窪ゼミで貴重な経験ができたんだなと改めて実感しました。

— インターンやアルバイトでも、ゼミでの経験が生かせる場面はありましたか?

窪田 私は栃窪先生の紹介で、テレビ局でAD補佐のアルバイトを1年間していたのですが、現場に出てみて初めて「先生から教わったことの意味がやっとわかった」と思う場面がたくさんありました。
 
 
小嶋 窪田さんがAD補佐として入っていた現場に、たまたま私もカメラのアシスタントとして入ったことがあったんです。栃窪先生の教えやゼミでの経験があったからこそ、お互いの現場での役割や立ち回りを理解しながら動くことができました。

— これまで積み重ねてきたことが現場で役立っているのですね。2人の今後の目標も聞かせていただけますか。

小嶋 私はこれから本格的に就職活動が始まります。カメラマンとして技術職での就職を目指すつもりです。自分が伝えたいことを画でしっかりと伝えられるようなカメラマンになりたいですね。私はアイドルが好きで、たくさん元気をもらってきたので、私も誰かに元気を与えられるような映像を撮れたらいいなと思っています。
 
 
窪田 私は4月からテレビ番組や配信コンテンツを手がける制作会社でADとして働く予定です。ゼミ活動を通して視野が広がり、社会貢献したいという気持ちが強まったので、将来は社会に影響を与えるような番組を作りたいと思っています。そしていつかは、私が栃窪先生にたくさんのことを教わったように、後輩を指導して育てられるような存在になりたいですね。

— 栃窪先生が考えるこれからの栃窪ゼミについてお聞かせください。

栃窪 私たちのゼミは、「地方の時代」映像祭で何度か優秀賞をいただいています。今年も実践プロジェクトが終わったら、映像祭に出品できるようなドキュメンタリー作品を1本作りたいなと思っています。映像は人にメッセージを伝えるものですから、制作者の思いが何より大切です。栃窪ゼミには毎年やる気のある学生が集まっていますので、これからも学生ならではの視点で、学生にしか伝えられないメッセージを社会に発信していきたいですね。

— 最後に、名古屋市と椙山女学園大学との連携について、今後の発展や目指すところがあれば教えてください。

杉本 行政広報の課題として、若者向けの広報が十分にできていないということがあります。そのため、広報課でもSNSを活用した広報に力を入れて取り組んでいるところです。広報を通じて若い人たちが市政に関心を持ち、参加していただけるようになれば、活気にあふれた魅力あるまちとして本市の発展につながるはずですので、若者向けの広報を充実していけるような連携方法を考えていけたら良いと思っています。

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完成した広報映像「名古屋の魅力 再発見!堀川クルーズ」

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