皮膚も、社会も、職域も。手を取り合うことで、強く美しく大きな効果に

大口 健司 教授

管理栄養学科

ヒトの体で最も大きな臓器である「皮膚」は、「体内の調子を映し出す鏡」とも言われています。企業や公的研究機関での研究経験を生かし、栄養学的な視点から見た美肌づくりを研究する大口先生に、教育者として大切にしていることを聞きました。

産官学に在籍した経験を、学生たちの未来に生かしたい

大学院の博士課程修了後、民間企業である花王(株)に就職しました。生物科学研究所の研究員として配属され、花王のスキンケアブランドに関わる基盤研究に携わったことをきっかけに、皮膚科学の世界に魅了されました。その後、自分の研究の幅をさらに広げるため、岐阜県の公的研究機関の研究員へ転職しました。そこでは様々な民間企業と連携しながら、人々の美容や健康を目指す研究を思う存分できたので、充実感をもって働いていましたね。

そんななか知人の先生から、とある医療系専門学校での非常勤講師のお話をいただいたんです。これまで研究一筋で教壇に立った経験がなかったので最初は不安もありましたが、実際にやってみると想像以上に楽しく「次は教育者として自分を成長させたい」という気持ちが段々と芽生えてきました。

以来、大学で教鞭を執ることとなり、椙山女学園大学に入職してからは13年が経ちます。民間企業、公的研究期間、そして大学という、いわゆる産官学をすべて経験した立場だからこそ伝えられることがある。それが教員としての私の強みだと思っています。

「Always Think」の精神を持つことで、社会に必要とされる人材に

授業の際に私が心がけているのは「学生の目線になること」。「自分が学生だったら、どんな授業が聞きたいか」を意識しています。学生の頃、自分が知りたいことと先生が伝えたいことが噛み合わなかったために、授業を退屈に感じた経験があります。教員となった今、学生にとって興味深い授業を行うことは使命だと思っていますし、それが私自身の「自分のありたい姿」でもあります。

この「自分のありたい姿」を持つことの大切さを、学生たちにもよく話します。“人間になろう”という教育理念を学生に話すとき、私は「“素敵な”人間になろう」と伝えています。そのために自分のありたい姿、理想とする姿を明確にイメージし、日常の行動や立ち振舞いにおいて意識することで、自然と「自分が目指す人間像=素敵な人間」になれるのではないでしょうか。

もうひとつ私の軸となっているのが、かつて恩師から教わった「Always Think(常に考える)」の精神です。管理栄養学科の学生は、管理栄養士という国家資格の取得を目指しますが、やはり現場から聞こえてくるのは「指示を待つのではなく、自ら考えて動くことができる管理栄養士を育ててほしい」という声。もちろん管理栄養士に限らず能動的に動ける人材が求められていると思いますが、管理栄養士も多様な能力が求められる仕事です。 患者さんや高齢者の方との円滑なコミュニケーションは必須ですし、柔軟な対応や芯の強さ、細やかな配慮などの力を大いに発揮できる職業だと思っています。

皮膚も社会も、補い合うことで最大の力を発揮する

現在は、自分のバックグラウンドである皮膚科学を柱に、管理栄養学科ならではの視点を融合させた「美容栄養学」の研究を行っています。美しく健康的に生きるための食生活や生活習慣について、科学的根拠に基づく正しい情報を女子大から発信することに大きな意義があると思っています。

皮膚科学研究に面白さを感じるのは、皮膚が直接観察できる唯一の臓器として、体内の状態を計り知る糸口となること。また、外界と接している皮膚には、いろいろな機能をもった細胞が集まっていること。強固なバリアを形成する表皮細胞、メラニンをつくる色素細胞、コラーゲンをつくる線維芽細胞、異物を排除する免疫細胞などが共同で働くことで、肌を健やかに保っています。それぞれの役割を果たせないとトラブルが起こってしまいますが、いざというときは自分の働きを超えてカバーすることもあったり……。この構図は、社会も同じだと思うのです。社会でも色々な役割を持つ人が、自分の役割を果たしています。でも自分の領域だけではなく、時には滞っている部分を補える人がいれば円滑に進みますよね。これも「Always Think」に通ずると思うので、学生たちには社会に出てからも意識してほしいと願っています。
 
そして、これまでの経歴において感じているのは、企業だけ、公的研究機関だけ、大学だけでは実現できないものが多いということ。でも、産官学が手を結んでそれぞれの得意分野を生かせば、大きなことを成し遂げられます。現在も民間企業や病院などとコラボレーションした共同研究を行っていますが、これからもこうしたネットワークを大切にしていきたいですね。

他のエピソードを見る